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シアンおよびシアン化物による中毒について
 

― 概要情報 ―
(1998年 7月29日、日本中毒情報センター)





目 次


□毒性     □中毒学的薬理作用
□中毒症状   □治療法   □分析法
□その他(文献)
   



毒 性

    
シアン化物はいずれも、大気中に含まれる二酸化炭素による酸性条件下でも
   十分にシアン化水素を遊離する。 1)


  [シアン]

   ・ヒト吸入TCLo 16ppm刺激性
   ・LD50/LC50

     吸入 ラットLC50:350ppm・1時間
        マウスLCLo:740mg/m(3)
        ネコLCLo:98ppm
        ウサギLCLo:395ppm 2)


  [シアン化水素]

   ・ヒトでの経口致死量は50mg1)
   ・ヒト経口 LDLo 0.57mg/kg
   ・ヒト吸入LCLo:180ppm・10分
   ・LD50/LC50
     吸入 ラットLC50:544ppm・5分
        マウスLC50:169ppm・30分
        マウスLC50:69ppm・30分
        イヌLC50:300ppm・3分
        ネコLCLo:2250ppm
        ウサギLCLo:540ppm・2分 2)


   [シアン化カルシウム]

   ・LD50/LC50
     経口 ラットLD50:39mg/kg 2)


   [シアン化カリウム]

   ・ヒト経口 LDLo:2.9mg/kg
   ・ヒト(成人)での経口致死量は200〜300mg
   ・ヒトで1g(あるいはそれ以上)服用して回復した症例がある。1)
   ・LD50/LC50
     経口 ラットLD50:10mg/kg

         イヌLDLo:3.8mg/kg
     皮下 マウスLD50:6mg/kg 2)

   [シアン化ナトリウム]

   ・ヒト経口 LDLo:2.9mg/kg 1)
   ・ヒト(成人)での経口致死量は200〜300mg
   ・LD50/LC50
     経口 ラットLD50:6.4mg/kg
     皮下 マウスLDLo:10mg/kg
         イヌLDLo:6mg/kg

         ウサギLDLo:2.2mg/kg 2)

   [塩化シアン]

   ・ヒト 159ppm・10分の吸入で死亡、TCLo:10mg/m(3)
   ・LD50/LC50
     吸入 ラットLC:1.40mg/l・10分
         ラットLC50:118ppm・30分
         マウスLC50:177ppm・30分
         マウスLC:310ppm・7.5分
         イヌLCLo:79ppm・8時間
         ウサギLC50:207ppm・30分
         モルモットLC50:207ppm・30分 2)


   [臭化シアン]

   ・ヒト吸入 LCLo:92ppm・10分
          20ppm・1分、耐えられず
          8ppm・10分、耐えられず
          1.4ppm・10分(最低刺激濃度)


   ・LD50/LC50
     吸入 マウスLCLo:500mg/m3・10分
         マウスTC:70ppm、3分後麻痺 2)


  [シアン化銀]

   ・LD50/LC50
     経口 ラットLD50:123mg/kg *6)
   ・眼刺激性 ウサギ 5mg/24H:強い刺激性あり *6)
    皮膚刺激性 ウサギ 500mg/24H:弱い刺激性あり *6)
   ・許容濃度 5mg/m(3)(皮膚)(シアンとして) *7)


  フェリシアン化合物、フェロシアン化合物では、金属との結合が強いために
  シアンを遊離しにくく、毒性は低い。 1)

    フェリシアン化カリウム 経口 ラットLDLo:1,600mg/kg 2)



中毒学的薬理作用

  
CN-がチトクロームオキシダーゼのFe3+に結合して安定な化合物を作り、
  細胞の呼吸を阻害する(cytotoxic hypoxia)。 1,3,4)



中毒症状

[循環器系症状]

  ・中毒初期には頻脈、血圧上昇、のちに徐脈、血圧低下
  ・不整脈                      1)


[呼吸器系症状]

  ・中毒初期には過呼吸、頻呼吸、のちに呼吸抑制、無呼吸
  ・咳、呼吸困難、気管支炎、肺水腫、肺炎を生じることがある。

  ・チアノーゼは血圧低下、無呼吸になって初めて出現する。 1)

[神経系症状]

  ・中毒初期には紅潮、頭痛、中枢神経刺激から
      のちに、中枢神経系の抑制、知覚鈍麻、昏睡 1)


[消化器系症状]

  ・嘔気、嘔吐、腹痛 1)

[その他]

  ・代謝性アシドーシス:アニオンギャップ増加性(おもに乳酸の蓄積による)の
             著明な代謝性アシドーシス 1)


  ・皮膚、眼:静脈血が動脈血と同じ明るい赤色を呈する(組織で酸素が利用
        されないために静脈血にも酸素ヘモグロビンがある)ため、
        通常チアノーゼは中毒末期、呼吸停止が起こるまでみられない。1,3)


     (シアン化銀)皮膚に刺激性あり、かゆみ、斑点を伴う発疹を生じることが
             ある。  *6,9)
   
        眼に刺激性あり、眼に入ると眼の表面が青-灰色に染色され
        ることがある。視力消失は起こらないが、眼の染色は眼科医
        の処置が必要(除去しなければ永久に残る)。 *7,10)




治療法


症状の進行が速いので、速やかに100%酸素の投与           アシドーシスの補正                    特異的な解毒療法

 
[検査]

  ・動脈血ガス分析
  ・血中シアン濃度の測定(通常、迅速にはできない)1)


    (参考)シアンの同定には10円硬貨を用いる方法が簡便である。10円硬貨
        を水でぬらし、微量の試量(摂取毒物)をその上にのせると、シア
        ン化物の場合はさびが取れて光り出す。 4)
        但し、胃内容物の場合、胃酸によっても同様のことが起こり得るので
        判断できない。*


(参考に、鑑別診断についての記載)


 ・患者が、血圧上昇、徐脈、チアノーゼでない(acyanotic)、頻呼吸の状態であれば、
  特に、急速に中枢神経系、循環器系の抑制が進行すれば、シアン中毒の可能性

  が高い。

  シアン中毒の特徴といわれる、明赤色を呈する静脈血、著明な代謝性アシドー
  シス、呼気の苦いアーモンド臭などはみられないこともある。 3)


 ・急激に増悪する臨床症状、とくに呼吸促迫、意識障害、説明のつかない著明な
  代謝性アシドーシスなどがみられた場合にはシアン中毒を疑い、詳細な病歴を

  聴取する必要がある。 4)


[経口]

 (1)基本的処置

   (1)胃洗浄:気管内挿管後施行(急速に意識障害が進行することがある)

   (2)吸着剤と下剤の投与:但し、活性炭の効果は疑問視されている。
               (シアン化物の吸収が早い、活性炭への吸着少ない)1)

 (2)対症療法

   (1)呼吸管理

   (2)循環管理

   (3)100%酸素の投与:酸素はシアンとチトクロームオキシダーゼとの結合を
                 解離させ、チオシアン酸への代謝を促進する。

   (4)代謝性アシドーシスの補正

   (5)高圧酸素療法:有効とする報告もあるが、有効性は確立されていない。1)

 (3)特異的処置

   (1)亜硝酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムの投与 1)


 解毒機序)
 亜硝酸ナトリウムでメトヘモグロビンを生成させ、メトヘモグロビンの Fe3+にCN-を結合させる。
シアンメトヘモグロビンから徐々に解離するCN-とチオ硫酸ナトリウムが結合してチオシアン酸になる。


    1)亜硝酸アミルの吸入:亜硝酸ナトリウムの注射の用意ができるまで毎分
                    30秒吸入させる。

    2)亜硝酸ナトリウム:3%液(日本では市販品なし)として成人では10ml、

      小児では 0.33ml/kgを最低 5分以上かけてゆっくり静注
              (低血圧を起こさないようモニターしながら)


    3)チオ硫酸ナトリウム:亜硝酸ナトリウム投与に続けて静注。
               25%液として成人では 50ml、
               小児では 1.65ml/kgを投与。

                (ただし、国内市販品は 10%)

     症状の改善がみられないときは、30分後に投与量を半分にして、亜硝酸ナ
     トリウム、チオ硫酸ナトリウムを再投与する。

     アメリカではこれらの薬剤が LILLY CYANIDE ANTIDOTE KIT(R)として市販さ
     れているが、日本では研究目的でしか入手できない。
    (注: LILLY CYANIDE ANTIDOTE KIT(R)は1998年 7月現在、発売中止になって
     いる。)       


     チオ硫酸ナトリウム注射液で入手できるのは10%液のデトキソールR、ハイ
     ポ注R。投与量は成人で125ml。


   ☆注意:亜硝酸化合物を過量投与するとメトヘモグロビン血症をおこす。
        この治療にメチレンブルーは禁忌(シアンメトヘモグロビン複合

        体からシアンを遊離させてしまう)。交換輸血を行う。 1)

   (2)その他の解毒剤 1)

    ・フランスでは、ヒドロキソコバラミン4g、チオ硫酸ナトリウム8gが
     antidotekitとして使用されている。

    ・ヨーロッパでジコバルトEDTA(KelocyanorR)が使用されている。

    ・メトヘモグロビンを生成させる薬剤として4-ジメチルアミノフェノール
     (4-DMAP)を使用しているところもある。 1)


   (3)血液浄化法:血液透析、血液吸着は無効 1,3)

[吸入]

 (1)基本的処置:新鮮な空気下に移送

 (2)対症療法:気道を確保し、100%酸素吸入
          経口の場合に準ずる。 1)


[経皮]

 (1)基本的処置:付着部分を石鹸と水で2回以上十分に洗う。

 (2)対症療法:その後も刺激感や疼痛残るなら、医師の診察が必要。吸収され、
          全身毒性を生じることがあるので注意が必要。
          (経口の場合に準ずる) 1)

[眼]

 (1)基本的処置:大量の水で少なくとも15分以上洗浄

 (2)対症療法:刺激感や疼痛、腫脹、流涙、羞明などの症状が残るなら眼科的治療
          が必要。

        動物実験では全身毒性もみられているので、注意が必要。
        (経口の場合に準ずる) 1)

  シアン化銀による眼の染色は眼科医の処置が必要(除去しなければ永久に
        残る)。 *7,10)




分析法

  ・胃洗浄回収液5〜10mlにFeSO4結晶を加える。20%NaOH液を4〜5滴加え、煮沸後、
   10%HClを8〜10滴加えたとき、シアンが存在すれば、緑灰色の沈澱ができる。1)


  ・シェーンバイン-パーゲンステッヘル法 5)

    [試薬](1)グアヤク試験紙:10%グアヤク脂エタノール溶液に細長い濾紙
         片を浸し、余滴を除いて風乾したのち、1%硫酸銅溶液で湿し、乾
          燥せずに直ちに用いる。


        (2)酒石酸溶液:飽和水溶液

    [操作]試料をフラスコに採り、酒石酸溶液を加えて酸性とする。これを
        グアヤク試験紙を下面に懸垂したコルク栓ですばやくせん塞し、
        水浴上でわずかに加熱する。試料中にシアンイオンが存在すれば
        試験紙は青色を呈する。

  ・簡便法

    10円硬貨を水でぬらし、微量の試量(摂取毒物)をその上にのせると、シア
    ン化物の場合はさびが取れて光り出す。4)


    但し、胃内容物の場合、胃酸によっても同様のことが起こり得るので判断でき
    ない。*




その他

  
[参考資料]

   1) Poisindex(Vol.66), Cyanide, Micromedex Inc., 1990.

   2) 産業中毒便覧, 医歯薬出版, 1984.

   3) Medical Toxicology -Diagnosis and Treatment of HumanPoisoning- ,
     Elsevier, 1988.

   4) 斉藤 徹,青酸化合物,救急医学,12(10):1383-1389, 1988.

   5) 薬毒物化学試験法注解,南山堂,1985.

  *6) RTECS,VOL.21,1994

  *7) 神戸海難防止研究会編:船積危険物防災・救急要覧,成山書店,1981.

  *8) 11691の化学商品:化学工業日報社,1991.

  *9) The Merck Index,11th edition,Merck & Co.,1989.

  *10) NEW JERSEY HAZARDOUS SUBSTANCE FACT SHEETS:VOL.21,1994. 

                              (資料作成日 950303)
 
 
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