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ボツリヌス中毒に関する情報
 
(1998年 8月15日、日本中毒情報センター)


目 次

□1.98年8月 東京都の中毒例について   □2.概要
□8.毒性     □9.中毒学的薬理作用
□11.中毒症状   □12.治療法
□14.分析法    □その他





1.8月14日 東京都のボツリヌスによる食中毒について

 8月14日 東京都でボツリヌスによる食中毒が疑われる患者が数名発生しました。患者が喫食したオリーブ漬けを東京都立衛生研究所で検査した結果、オリーブのつけ込み液とオリーブの実からボツリヌスB型毒素が検出されたとのことです。

品 名:グリーンオリーブ(ガラスビン詰め 2、700g入
    350g入もあり)


    品質保持期限 2001.12.31
     販売者:(有)ブリッジス
     原産国:イタリア






2.概要
 

ボツリヌス食中毒(食餌性ボツリヌス症)は、ボツリヌス菌が食品に付着、増殖して神経毒素を産生し、この神経毒素で汚染された食品を経口摂取することで惹起される毒素型の細菌性食中毒である。ボツリヌス毒素は、現存する毒素の中で最も毒性が高く、細菌性食中毒の中では最も致死率が高かったが、十分な呼吸管理と抗血清により、近年は致死率が低下している。なお、食餌性ボツリヌス症のほかに、乳児ボツリヌス症、創傷性ボツリヌス症、未分類のボツリヌス症が知られている。
 

ボツリヌス菌:
  • グラム陽性、芽胞形成性、嫌気性、桿菌、数本の鞭毛を有し運動性がある。
  • 大きさは0.8〜1.2×4〜6マイクロメーター
  • 菌にはA、B、C(Cα,Cβ)、D、E、F型がある。11)22)
 ボツリヌス毒素:A、B、C(C1,C2)、D、E、F型があり、ヒトの中毒はA、B、E型によるものが多い。9)

 発生状況:

  • ボツリヌス食中毒の発生は少ないが、中毒事例は世界各地にみられる。
  • 日本では1955〜1995年に82件の食中毒事例があり、患者数328人、死亡者68人(致死率20.7%)である。最近10年(1985〜1995年)では14件発生し、患者数29人、死亡者1人(致死率3.4%)であった。 13)
     
汚染経路:ボツリヌス菌は本来土壌細菌で、抵抗性の高い芽胞の状態で世界中の土壌、海、湖など自然界に広く分布しているので、食品原料が汚染を受ける。1)

原因食品:

  • 日本での過去の事例は、従来北海道、東北地方で作られる”いずし”(E型)による食中毒が大部分であるが、真空パックのからしれんこん(A型、患者36人、死者11人)、輸入キャビア瓶詰(B型、患者21人、死者3人)などによる中毒も発生している。11)
  • 欧米では19世紀はソーセージ(botulusはラテン語でソーセージを意味する)による中毒が多く、20世紀になってからは殺菌不十分な野菜・果物の自家製缶詰(A型、B型)や魚(E型)による食中毒が知られている。
  • 一般にpH4.6以上で水分含量が高い(Aw0.94以上)食品は原因食品になり得る。11)





8.毒性
  • ボツリヌス毒素のヒトの致死量は0.1〜5.0マイクログラム/Kg 8)14)
  • 日本では1955〜1995年に82件の食中毒事例があり、患者数328人、死亡者68人(致死率20.7%)であった。最近10年(1985年〜1995年)では14件発生し、患者数29人、死亡者1人(致死率3.4%)であった。 13)




9.中毒学的薬理作用

・神経筋接合部位のアセチルコリン遊離阻害作用 1)〜4)9)







11.中毒症状
  • 潜伏期:通常12〜36時間だが、3時間〜14日まで報告がある。 1)
    E型毒素は潜伏時間が短く、B型毒素は潜伏時間が長い。 1)
  • 症状は、最初はおおむね嘔気、嘔吐にはじまり、その後急激に神経麻痺症状(複視、眼瞼下垂、瞳孔散大などの眼の症状、耳鳴り、難聴、仮面上顔貌、などの球麻痺症状、唾液や発汗などの分泌障害、構語困難、嚥下障害、呼吸困難)が発現する。
  • 神経症状は両側対称性で、まず脳神経領域に発現し、下行性である。症状の程度は、体重に対する摂取毒素量で決まる。
  • 胃腸炎症状は少ないが、腹痛、下痢(病初期)、持続する便秘(進行した時期)がみられる。なお、意識は清明で発熱はみられない。 9)14)
  • 重症例では、呼吸筋、横隔膜麻痺のため呼吸困難におちいり死にいたる。1)〜4)13)
  • 臓器別の臨床症状


       1.循環器系症状:心拍停止、律動不整 1)

       2.呼吸器系症状:頻呼吸、呼吸麻痺、呼吸機能不全、筋脱力、呼吸困難、誤嚥性肺炎、(長期)呼吸困難、再発性無気肺 1)

       3.神経系症状:呼吸筋麻痺、めまい、構語障害、複視、眼球運動麻痺、四肢脱力、バビンスキー反射・その他の病的反射の欠如、
         嗜眠、知覚異常、両側性顔面神経麻痺  1)
         
       4.消化器系症状:嘔気、嘔吐、便秘、腹部痙攣、麻痺性イレウスによる腹部膨満(腸音欠如)1)

       5.肝 症 状 :記載なし
  
       6.泌尿器系症状:尿閉(コリン作動性神経阻害による、主にE型で起こる) 1)

       7.その他:
  • 眼:斜視、眼振、下垂症、その他外眼運動異常が起こる。 1)
      霧視、複視、羞明、散瞳、眼筋麻痺  1)

  • 口腔咽頭:口渇、咽頭痛、嚥下困難、嘔吐反射欠如 1)

  • 筋  肉:首の筋肉の脱力、疲労 1) 

  • 内分泌:抗利尿ホルモン不適切症候群  1)

  • 体  温:通常、発熱しない(感染症を併発すると発熱) 1)
  • 検 査
      動脈血液ガス、電解質、筋電図、肺活量、吸気力など 1)
  • 診 断
  • 最も確実な診断は、ボツリヌス毒素またはボツリヌス菌の証明である。 1)〜4)
  • 血中、糞便、吐物、胃内容物、原因食品中から証明する
  • 予 後
      残留性の神経症状(数ケ月〜1年)  便秘





12.治療法

経口の場合
 

 食餌性ボツリヌスでは、抗血清の投与と呼吸管理が主な治療となる。 2)


(1)基本的処置

A.催吐・胃洗浄:早期で、症状が発現していない場合に行う。1)

B.活性炭の投与:早期であれば行う。

C.下剤の投与(ナトリウム塩):症状が進行していない患者に投与。 1)

 マグネシウム塩を含む下剤は神経筋ブロックが増強する可能性があるため禁忌である。 1)

D.浣腸:イレウスがない場合に行う。 1)

E.強制利尿・血液浄化法: 有効性については資料なし

 (2)対症療法


A.呼吸・循環管理:呼吸・循環管理が最も重要である。1)〜4)

B.体液、電解質の補正

C.抗生物質:呼吸器感染、尿路感染のような合併症にのみ使用する。1)

 (3)特異的治療


A.ボツリヌス抗血清の投与  5)6)
 乾燥E型ボツリヌスウマ抗毒素(R)、
 乾燥ボツリヌスウマ血清(A、B、E、F型)(R)(千葉血清)

その他 厚生省配布資料から

   千葉県血清研究所
       千葉県:電話047−372−3571
   (財)阪大微生物病研究会観音寺研究所
       香川県:電話0875−25−4171
   (財)化学及び血清療法研究所
       熊本県:電話 096−344−1211








14.分析法

 バイオアッセイが感度が高い。

 マウス腹腔内注射法がボツリヌス毒素の定性、定量に一般的に用いられている。10)






15.その他

A.予防

(1)加熱 12)


缶詰その他の加工食品は、食前の加熱を行う。 11)
毒素は80℃30分の加熱で分解する。 12)
A型、B型 65℃10分(菌の死滅)、120℃ 4分(芽胞
の死滅)
E型    65℃10分(菌の死滅)、80℃ 30分
(芽胞の死滅) 12)

(2)酸性化


pH4.5以下(自家製缶詰にはリン酸、クエン酸が通常用
いられる) 3)

参考資料

1.Poinidex: 93th, Edition,1997

2.Matthew, J.E. & Donald G.B.: Medical Toxicology- Diagnosis and Treatment of Human Poisoning-(2nd Edition), Elsevier, 1997, pp1054-1060.

3.Goldfrank L.R. et al: Goldfrank's Toxicologic Emergencies (5th Ed.),1994,pp937-67.

4.Lester M.H. & James F.W.: Clinical Management fo Poisoning and Drug Overdose (2nd Ed),1990,pp 588

5.日本医薬品集(医療薬)、薬業時報社、1995

6.千葉県血清研究所添付文書集、1996

8.内藤裕史、ボツリヌス、中毒百科ー事例・病態・治療ー、南江堂、1991,pp278-282

9.小花光夫、他:毒素型食中毒、治療、78、2577-2583、1996

10.坂口玄二:細菌性食中毒、毒性試験講座16 食品、食品添加物、 地人書館、1996 pp106-108.

11.渡辺忠雄他:ボツリヌス食中毒、入門食品衛生学(改訂)、南江堂、1986、9950-53.

12.東京都衛生局生活環境部食品保健課:こうしておこった食中毒(改訂版)、1996、pp106-108.

13.厚生省生活衛生局食品保健課編:平成7年 食中毒統計、1997.

14.島田馨:細菌性食中毒の病態生理と臨床、治療、78、2551〜2554、1996
 
 
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