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アジド類 (アジ化ナトリウム等)Azides による中毒
 
― 概要情報 
(1998年 8月12日、日本中毒情報センター)





目 次


□用途  □毒性  □中毒症状  □治療法  □参考資料





6.用途

1)アジ化ナトリウム

  • アジ化水素酸の原料、アジ化鉛および純ナトリウムの調製、ある種の有機合成 5)
  • 防腐剤として、自動血球計算機の希釈液、肝炎抗原検出用試薬 7)
  • 起爆剤として、自動車用エアバッグ、航空機の緊急脱出用シュート 7)
    注)国内向けの自動車用エアバッグに関しては、環境負荷物質低減のため、1999年度末
      までに非アジ化ガス発生剤への切り替えが完了している。  13)
      したがって、2000年以降、日本国内で販売された日本製の新車では、アジ化ナトリウム
      は使用されていない。 

2)アジ化水素

  • 有機合成、起爆薬、アジ化鉛製造 5)




8.毒性

1)アジ化ナトリウム

  • 経口、経皮、腹腔内、静注、皮下などすべての経路で有毒。 1)
  • 酸と反応してアジ化水素を発生する。 7)
  • エアバッグが膨張する際、ガス生成反応の副産物として生じる少量の水酸化ナトリウムは空気中の二酸化炭素や水蒸気と速やかに反応し、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムになり、眼損傷や顔面熱傷を引き起こすことがある。 8)
[治療量]

 経口ヒト:
  • 0.65〜1.3mg(高血圧患者):速やかな血圧降下作用があり、10〜15分持続する。
  • 0.65-3.9mg/日/1週間-2年間の服用で有害作用なし。
[中毒量]

 経口ヒト:
  • 1.3mgx3回/日x10日(健常者):血圧に対して作用はなく、一過性の頭部の拍動感のみが認められた。 5、8)
  • 40mg:3分後にめまい、動悸が出現したが、間もなく完全に回復。 7)
  • 50-60mg(39才、男性):5分後突然失神、卒倒、尿失禁、10分後吐き気、激しい頭痛、頭痛は翌朝まで続いたが、1週間後に完全に回復。 7)
  • 80mg(24才、男性):両腕に拡散する狭心症に似た激しい胸痛、足のしびれを訴え床に倒れたが数時間で回復。 7)
  • 150mg(成人):頻脈、嘔吐、頭痛、下痢、白血球増多、心電図異常が出現したが、 10日間で回復。 7)
  • TDL0:710μg/kg  麻酔作用、傾眠 2、3)
      ♀3mg/kg  頭痛、呼吸困難、消化管運動の亢進、下痢 2)

 静注ヒト:

  • 17-80μg/kg(推定):中毒症状が発現(透析液の汚染例) 8)
[致死量]:

 経口ヒト:
  • 700-800mg(13mg/kg)、1-2g(20-40mg/kg)、10-20g(200-400mg/kg)、 15-20g(300-400mg/kg)、55g(1000mg/kg)で死亡した報告がある。 8)
  • 1.2-2.0g(52才):30時間後死亡。 7)
  • 15-20g(男性):服毒2時間後に入院、集中治療行うも、入院2時間後から、心室性不整脈、心室細動が出現し、服毒5時間後に死亡。 7)
  • LDL0:♀14mg/kg 痙攣、不整脈(伝導変化を含む)、心収縮力の変化 2)
      ♂29mg/kg 頭蓋内圧上昇、急性肺水腫 2)
  • LD:♂129mg/kg 昏睡、脈拍・その他心機能変化 2)
  ♂ 143mg/kg 散瞳、傾眠、過敏性 2)
♀786mg/kg 痙攣、昏睡、不整脈(伝導変化を含む) 2)


[急性毒性(動物)]
  • 比較的大量投与後、呼吸刺激、痙攣、ついで抑制、死亡。
  • 少量投与後、痙攣の発現は一定していないが、常に速やかに一過性の血圧低下がみられる。 5)
  • 経口ラット;LDL0:46mg/kg 5)
腹腔内ラット;LDL0:30mg/kg 2、3、5)
皮下ラット;LDL0:35mg/kg 3、5)
静注ウサギ;LDL0:17mg/kg 2)
静注サル;LDL0:12mg/kg 2、3、5)
経口ラット;LD50:27mg/kg 2、3)
経口マウス;LD50:27mg/kg 2、3)
静注ラット;LD50:45.1mg/kg 2)
静注マウス;LD50:19mg/kg 2、3)
気管内ラット;LD50:47.5mg/kg 2)
腹腔内マウス;LD50:28mg/kg 2、3) 18mg/kg 5)
皮下マウス;LD50:23.06mg/kg 2)
経皮ウサギ;LD50:20mg/kg 2、3)


[特殊毒性]

  • 遺伝毒性(ヒト 30mモル/L):DNA阻害あり 2)
  • 変異原性(大腸菌他微生物):あり 2)
  • 催腫瘍性;ラット経口(2730mg/kg/78W-C):あり 2)
  • 発がん性(ヒト):現時点ではデータなし 1)
  • 頻回投与試験;
  • ラット経口(240mg/kg/14D-I):心重量、肝重量の変化 2)
  • ラットに5-10mg/kgを15-30分ごとに3-6時間にわたって繰り返し腹腔内投与すると、激しい中毒を引き起こし、生き残った動物に中枢神経系の髄鞘神遺伝毒性(ヒト 30mモル/L):DNA阻害あり 2)
[許容濃度]
   ACGIH:天井値;0.11ppm(約0.3mg/m(3)) 1、4)
   日本産業衛生学会:設定なし 5)


2)アジ化水素
  • 皮膚・眼・粘膜に非常に強い刺激作用がある。 3)
  • 沸点が低いため、希薄溶液からでも高濃度のアジ化水素が発生する。 7)
[中毒量]
 吸入ヒト;TCL0:3ppm 中枢神経障害(傾眠) 2、5)


[急性毒性(動物)]
  • 吸入ラット;LCL0:1100ppm/1H 催涙、呼吸困難、唾液腺の構造・機能の変化 2、3)
  • 腹腔内マウス;LD50:22mg/kg 呼吸刺激、血圧低下、全身痙攣、抑うつ 2、5)
  • 吸入モルモット:急性細気管支炎、肺水腫。3時間-3日後に死亡した場合の病理学的変化は肺にのみ認められた。吸入や注射による投与では、肝、腎の障害は認められていない。 5)
[許容濃度]
 ACGIH:天井値;0.1ppm 1、2)
 日本産業衛生学会;設定なし 5)






11.中毒症状
  • 中毒症状はほとんど暴露直後から出現するが、ときに遅延することがある。完全に回復するのに数日または数ケ月を要した例がある。 1)
  • アジ化ナトリウム中毒では頭痛、中枢神経抑制、昏睡、不安、胸部不快感、高体温または低体温、肺水腫、乳酸アシド−シス、徐脈または頻脈、低血圧(ときに高血圧が先行する)、不整脈、心電図異常、悪心、嘔吐、下痢、息切れ、発汗、失神、複視、痙攣などが出現 する。 1)
  • アジ化水素の蒸気に暴露されると、眼、気道粘膜を刺激し、気管支炎、頭痛、倦怠感、めまい、失神、低血圧、肺水腫などを引き起こす可能性がある。 1、5)
  • 高濃度では致死的な痙攣を引き起こすことがある。 3)
  • 死亡例では肺、脳、心筋壁が腫脹し、心筋壊死の病巣が認められた。 8)
  • エアバッグ設置の自動車事故では、生じる少量の水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどにより、眼損傷、顔面熱傷を起こすことがある。 1、5、7、8)
  • 臓器別臨床症状
(1)循環器系:
  • 低血圧(高血圧が先行することがある)、心悸亢進、頻脈、不整脈、心室細動、徐脈
  • 高血圧患者;正常血圧者より本剤による血圧低下が大きい。 5)
  • 心室細動;15-20gを服用した30才男性で出現
  • 心ミオパチー; 0.1%含有液700mL誤飲した29才女性は回復3日後に、心筋虚血、左心室機能不全、心電図上心筋障害の所見を示し、摂取84時間後に死亡した。
  • アジ化水素吸入4カ月後、心電図に心筋障害の症状が出現した例がある。 7)

(2)呼吸器系:咳、気管支刺激、胸痛、息切れ、頻呼吸(低濃度暴露でごく早期から出現)、 無呼吸、肺水腫

(3)神経系:頭痛、めまい、ふらつき、弛緩、筋脱力、昏睡、痙攣、虚脱、失神アジ化水素吸入23日後、外転神経麻痺、手指の震えが出現した例がある7)

(4)消化器系:悪心、嘔吐、下痢

(5)肝  :アジ化水素吸入23日後、中毒性肝炎の症状が出現した例がある。 7)

(6)その他:
  • 酸・塩基平衡:代謝性アシド−シス;10-20g摂取した患者で持続性の代謝性アシド−シスがみられた。
  • 眼:眼刺激、流涙、結膜炎、眼のかすみ、複視、散瞳、瞳孔固定
  • 鼻:(吸入)鼻粘膜刺激、鼻汁、鼻出血
  • 血液:白血球数増加 7)
  • メトヘモグロビン濃度が上昇した例がある(アジ化ナトリウムがカタラーゼや過酸化酵素を阻害し、細胞内で過酸化水素が増加する結果、ヘモグロビンが酸化されるためと考えられているが、メカニズムの全容は明らかではない)。 12)
  • その他:低体温または高体温、悪寒、尿失禁、多飲多渇症(アジ化水素慢性)腎・脾臓の障害、低血圧、心悸亢進、運動失調、脱力 3)
  • 検査所見:白血球数増加、血漿中乳酸値・血糖値の上昇、心電図変化 8)
  • 脳波変化(持続吸入) 3)





12.治療法
  • 特異的な解毒剤、拮抗剤はない。基本的処置、対症療法を十分に行う。 1、8)
  • 呼吸・循環機能の維持管理 1、8)
    心電図モニタ−を行い、少なくとも48〜72時間は経過を観察する。 8)
  • 二次汚染対策を行った上で治療する。
     アジ化ナトリウムは胃酸と接触すると、アジ化水素を発生する。医療者は保護具を着用し、治療室の換気、患者の吐物・胃吸引物の管理などに注意が必要。 8、10)
  • エアバッグ設置の自動車事故では、皮膚をよく洗うとともに注意深く眼の検査も行う。 8)

経口の場合

(1)基本的処置 1、8)

A.催吐:勧められない(突然、虚脱状態や痙攣が起きる危険性があるため)
B.胃洗浄:気道を確保し、摂取後数時間以内に行うならば有用。 8)
C.活性炭・下剤の投与
D.体外排泄法:交換輸血、活性炭血液吸着(DHP)、血液透析、腸洗浄;有用性を示すデータがない。 1、8)

(2)対症療法 1、7、8)

A.酸素投与:中等度または重度の症状がある場合、PO2が正常でもルーチンに100%酸素を投与すべき。 8)

B.昏睡:ナロキソン投与、グルコース静注を試みる。 8)

C.痙攣対策

D.低血圧対策:輸液、昇圧剤投与(第一選択;ド−パミン、第二選択;ノルエピネフリン)

E.肺水腫対策:
  • 動脈血ガスをモニタ−するなど呼吸不全の発生に留意する。呼吸不全が進行する場合は人工呼吸(持続陽圧呼吸)が必要。
  • 輸液:過剰輸液を避ける。中心静脈圧、できればスワンガンツカテーテルで循環動態をモニターする。
  • モルヒネ:勧められない(呼吸抑制や頭蓋内圧の上昇を引き起こすことがあるため)
  • 抗生物質:感染症が明らかな場合投与する。
  • ステロイド:予防効果、治療効果は明らかではない。

F.代謝性アシド−シス:pH7.15以下に低下した場合、炭酸水素ナトリウム静注で補正 8)

G.その他の治療法
  • 亜硝酸ナトリウム:ヒトでは臨床上有効ではない。 1、7)
  • シアン中毒の場合と同様、亜硝酸ナトリウムを投与して、Fe2+をFe3+に変えメトヘモグロビンを作ると、アジドがこれに結合し理論的には解毒効果があると考えられる。しかし、親和性が弱いためアジドと結合するメトヘモグロビン(アジドヘモグロビン)は一部にしかすぎず、効果が少ない。また亜硝酸ナトリウム自体の血圧降下作用のため、さらに症状が悪化する可能性がある。 7)
  • 高圧酸素療法:理論的には有用であるが、ヒトでの治療に勧めるにはさらに試験が必要。 1)

H.検査:症状がある患者ではバイタルサイン、酸・塩基平衡、胸部X線検査、心電図、頭蓋内圧(脳障害のある場合)などのモニタ− 1、8)

吸入の場合 1、8)

(1)基本的治療

A.新鮮な空気下に速やかに移送
B.呼吸不全を来していないかチェック
C.汚染された衣服は脱がせ、暴露された皮膚、眼は大量の流水で洗う。

(2)対症療法

A.咳や呼吸困難のある患者には、必要に応じて気道確保、酸素投与、人工呼吸等を行う。
B.全身症状が発現しないか注意深く観察する。
C.必要に応じて、上記経口の場合に準じて治療する。

眼に入った場合 1)

(1)基本的処置

直ちに大量の微温湯で少なくとも15分間以上洗浄する。

(2)対症療法

洗浄後も刺激感、疼痛、腫脹、流涙、羞明が続く場合は、眼科的診察を受ける。必要に応じて、上記経口の場合に準じて治療する。

経皮の場合 1)

(1)基本的処置
  直ちに付着部分を石鹸と水で十分洗う。


(2)対症療法
  洗浄後も刺激感、疼痛が残るなら医師の診察必要
  必要に応じて、上記経口の場合に準じて治療する。






15.その他

[参考資料] 

1.POISINDEX:SODIUM AZIDE,94TH EDITION,1997

2.NIOSH:Registry Toxic Effects of Chemical Substance,VOL.34,1997

3.Sax,N.I.,Lewis,R.J.:Dangerous Properties of Industrial Materials,7th edition,1989

4.12695の化学商品,化学工業日報社,1995

5.後藤 稠他編:産業中毒便覧,医歯薬出版,1984

6.Martha Windholz et al:The Merck Index,11th edition,Merck & Co.,1989

7.内藤裕史:中毒百科,南江堂,1991

8.Matthew J.E.& Donald G.B.:Medical Toxicology,2nd edition,Elsevier,1997

9.Gosselin R.E. et al:Clinical Toxicology of Commercial Products,5th edition,Williams & Wilkins,1984

10.Senecal P.E. et al:Vet Hum Toxicol,33(4):364,1991

11.日本化学会編:化学防災指針集成,丸善,1996

12.Lambert,W.E. et al:Application of high-performance liquid chromatography to a fatality involving azide.J.Anal.Toxicol.,19:261-264,1995

13.経済産業省資料、自動車メーカー各社資料
(資料作成日 971020)
 
 
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