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ヒ素およびヒ素化合物による中毒について
 
― 概要情報 ―
(1998年 8月 3日、日本中毒情報センター)




目 次

□毒性   □中毒学的薬理作用  □中毒症状
□治療法  □その他(文献)





毒性



   ・水溶性の化合物の方が難溶性のものより毒性が強く、水溶性の塩のうちでは、

    3価のヒ素化合物の方が5価のものより毒性が強い。6)



   [ヒ素]



   ・LD50/LC50 5)

     腹腔 モルモットLDLo:10mg/kg

     皮下 モルモットLDLo:300mg/kg



   [三酸化ヒ素]



   ・ヒト経口最小致死量 1429μg/kg 5)



   ・LD50/LC50 5)



     経口 マウスLD50:31.5mg/kg

         ラットLD50:40mg/kg

         イヌLDLo:10mg/kg

         ウサギLDLo:4mg/kg



     静脈 マウスLD50:10.7mg/kg

         ウサギLDLo:10.56mg/kg



     腹腔 ラットLD50:871mg/kg



     皮下 マウスLD50:9.8mg/kg

         ラットLDLo:15mg/kg

         ウサギLDLo:7mg/kg

         モルモットLDLo:6mg/kg



     皮内 イヌLDLo:2mg/kg



  [五酸化ヒ素]



   ・LD50/LC50 5)



     経口 マウスLD50:55mg/kg

         ラットLD50:8mg/kg

     静脈 ウサギLDLo:6mg/kg

     皮下 ウサギLDLo:12.4mg/kg



  [三塩化ヒ素]



   ・局所に対する刺激も非常に強く、無傷の皮膚からも浸透する可能性あり。6)



   ・LD50/LC50 5)

     吸入 マウスLCLo:338ppm・10分

         ネコLCLo:200mg/m3・20分



  [ヒ酸]



   ・LD50/LC50 5)

     経口 ラットLD50:48mg/kg

         イヌLDLo:10mg/kg

         ウサギLDLo:5mg/kg



  [亜ヒ酸ナトリウム]



   ・ヒト経口最小中毒量 1mg/kg(小児)5)

   ・ヒト経口最小致死量 2mg/kg(小児)5)



   ・LD50/LC50 5)

     経口 ラットLD50:41mg/kg

         ウサギLDLo:12mg/kg

     腹腔 マウスLD50:19mg/kg

         ラットLDLo:7mg/kg

     静脈 ラットLDLo:6mg/kg

         ウサギLDLo:6mg/kg

     経皮 ラットLD50:150mg/kg



  [亜ヒ酸カルシウム]



   ・ヒト経口最小致死量 5mg/kg 2)



  [亜ヒ酸カリウム]



   ・ヒト経口最小中毒量 74mg/kg 5)



   ・LD50/LC50 5)



     経口 ラットLD50:14mg/kg

         イヌLDLo:3mg/kg



     静脈 イヌLDLo:2mg/kg

         ウサギLDLo:6mg/kg



     皮下 イヌLDLo:700μg/kg

         ネコLDLo:5mg/kg

         モルモットLDLo:9mg/kg

         マウスLDLo:16mg/kg

         ウサギLDLo:8mg/kg



     経皮 ラットLD50:150mg/kg



  [ヒ酸ナトリウム]



   ・LD50/LC50 5)



     経口 ウサギLDLo:51mg/kg

     腹腔 ラットLDLo:49mg/kg

     静脈 ラットLDLo:85mg/kg

         ウサギLDLo:28mg/kg



  [ヒ酸カルシウム]



   ・LD50/LC50 5)

     経口 ラットLD50:20mg/kg

         マウスLD50:794mg/kg

         イヌLD50:38mg/kg

         ウサギLDLo:50mg/kg

     経皮 ラットLD50:2400mg/kg



  [カコジル酸]



   ・LD50/LC50 5)

     経口 ラットLD50:644mg/kg

     腹腔 マウスLDLo:500mg/kg



  [メタンアルソン酸]



   ・LD50/LC50 5)

     経口 ラットLD50:961mg/kg

     皮下 マウスLD50:794mg/kg



  [亜ヒ酸鉛]



   ・LD50/LC50 記載なし5)



  [ヒ酸鉛]



   ・経路不明だが、ヒトで最小致死量1050mg/kg 5)

   ・LD50/LC50 5)

     経口 ラットLD50:100mg/kg

         ウサギLDLo:75mg/kg



  [シェーレグリーン]



    ・ヒト経口致死量 約0.4g 2)



  [エメラルドグリーン]



    ・LD50/LC50 2)

     経口 ラットLD50:22mg/kg





 
9.中毒学的薬理作用

  スルフヒドリル基に結合して酵素を阻害し、細胞の代謝(酸化的リン酸化)に障

  害を与えることが主な作用機序1,7)。体内でヒ素がリンと置き替わることも酸化

  的リン酸化の阻害につながるが、その寄与はわずかである。7)





  
11.中毒症状



[循環器系症状]

 ・血圧低下:早期からヒ素の血管拡張作用により、また血管壁透過性亢進により大
  量の体液、電解質の消失をきたし、hypovolemia、重篤な場合はショック。1,6,7)

 ・頻脈:hypovolemiaなどから二次的に生ずる。1)

 ・循環不全が死亡原因となる(24時間以内から4日後)。7)

 ・稀に心室性頻脈、心室細動7)

 ・回復後も数カ月QTの延長、T波の反転が続くことがある。7)



[呼吸器系症状]

 ・呼気にニンニク臭1,7)

 ・呼吸筋麻痺による呼吸不全、肺浮腫、ARDSの報告がある。1)



[神経系症状]

 ・頭痛、嗜眠、譫妄、昏睡、痙攣7)

 ・遅れて、末梢性神経炎1,7)



[消化器系症状]

 30分以内〜2時間後までに、嘔吐、血性下痢、激しい腹痛、灼けるような食道痛1,7)



[肝症状]

 遅れて、黄疸7)



[泌尿器系症状]

 ・遅れて、腎不全7)

 ・無尿、血尿、タンパク尿、急性尿細管壊死、腎不全1)



[その他]

 (1)血液:溶血、汎血球減少症1)

 (2)皮膚:紅潮、発汗、手掌の角化症、末梢浮腫、過度の色素沈着と茶色の落屑、

      剥脱性の皮膚炎1)





 
12.治療法

[検査]

  ・血中濃度測定はあまり有用ではない(半減期が短いため)。7)

  ・尿中濃度の測定

    通常は50μg/L以下で、200μg/L以上であれば、入院、キレート療法が必要7)

  ・毛髪中の含有量

    毛髪100g中に、通常0.1mg以下。0.1-0.5mgなら慢性中毒、1-3mgで急性中毒7)



[経口]

 (1)基本的処置

   1)催吐6,7)

   2)胃洗浄1,6,7)

   3)吸着剤と下剤の投与

     但し以下のような記載があり、注意が必要である。

          ・有効性は不確か7)

          ・活性炭にはあまりよく吸着しないとする報告がある。1)

          ・硫酸マグネシウムなどの下剤は通常不要で、危険である。6)

   4)腸洗浄

     X線撮影により下部消化管にヒ素が確認されれば考慮する。1)



 (2)対症療法

     1)循環管理

     ・体液電解質バランスに十分な注意が必要。1,7)

     ・低血圧には昇圧剤よりもまず輸液。1,7)

     ・頻脈もhypovolemiaより起こっているのでまず輸液。1)



 (3)特異的処置
  
症状のある患者には早期にキレート療法を施行。無症状であっても
尿中濃度が200μg/L以上であればキレート療法の適応。1,7)

     1)BAL(一般名;ジメルカプロール)の投与

      製品としては バル注(第一製薬);1アンプル中100mg



     ・1回2.5mg/kg、第1日目は6時間間隔で4回、第2日目以降6日間は1日1回

      筋注(増減)。

      重症緊急を要する中毒症状には、1回2.5mg/kg、最初の2日間は

      4時間毎に1日6回、3日目には1日4回、以降10日間あるいは回復するまで

      1日2回筋注(増減)。−日本医薬品集−8)



     ・2日間、3-5mg/kgを4時間毎に筋注、翌日は6時間毎に3mg/kgを筋注、

            その後7日間は、12時間毎に3mg/kgを筋注。

     (症状がなくなるか、24時間の尿中排泄量が50μg以下になるまで)7)



         <副作用>



      蕁麻疹、口唇・口腔・咽喉の灼熱感、発熱、結膜炎、頭痛、

      一過性の白血球減少症、低血圧など。

     ジフェンヒドラミン1.5mg/kgを6時間毎に筋注あるいは服用が、ある程度は有効7)



     2)ペニシラミンの投与

     ・小児 1日量100mg/kg(最大1gまで)を4回に分けて経口投与、5日間

            成人 1回500mgまでを1日4回経口投与7)

     ・補助的な療法(第一選択はBAL)。ペニシリン過敏症の患者には禁忌。7)



     3)DMSA(2,3-ジメルカプトコハク酸)の投与

      日本国内では医薬品としては入手できないが、試薬として入手可能。

      海外では小児のヒ素中毒にDMSA 10mg/kgを8時間毎に5日間の経口投与が

      すすめられている。1)



     4)血液透析:腎不全があれば1,7)、ヒ素-BAL複合体を除去するために必要。6)



[経皮]



 (1)基本的処置:付着部分を石鹸と水で2回以上十分に洗う。



 (2)対症療法:その後も刺激感や疼痛残るなら、医師の診察必要。

         三塩化ヒ素などは酸としての腐食作用に注意が必要で、経皮吸収の可

         能性がある。処置は経口に準じる。






 
15.その他

  [参考資料]



   1) Poisindex(Vol.69), arsenic, Micromedex Inc., 1991.



   2) 産業中毒便覧, 医歯薬出版, 1984.



   3) 第12改正日本薬局方解説書,広川書店,1991.



   4) 薬毒物化学試験法注解,南山堂,1985.



   5) Registry of toxic effects of chemical substances 1985-86



   6) Clinical Toxicology of Commercial Products(5th Ed.),

     Williams&Wilkins, 1984.



   7) Medical Toxicology -Diagnosis and Treatment of Human Poisoning- ,

     Elsevier,1988.



   8) 日本医薬品集(医療薬),薬業時報社,1991.



   9) The Merck Index(11th Ed.), Merck&Co.Inc., 1989.



   (資料作成日 92040
 
 
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